前東京都知事の猪瀬直樹氏が徳洲会から5,000万円を受け取っていた問題で、東京地検特捜部が公職選挙法違反容疑などでの告発状を受理するに至った。違法な行為は許されるべきではない。だが、今回の問題が発覚するやいなや、猪瀬氏の功績のみならず人格までをも全否定するような風潮には違和感を覚えざるを得ない。是々非々で論ずるべきだ。
まず、収賄罪に関連して、東京電力の株主総会において、猪瀬氏が東京電力病院の売却を迫ったことが不正とされている点について。この頃の猪瀬氏の著述では「東電病院は稼働率20%の赤字体質であるにもかかわらず一般開放せず社員専用としている。東電は破産して公的資金を注入したのだから病院の赤字を電気料金で補填することを許してはならず売却すべき」と極めて理路整然に説明していた。たとえ情報源が徳洲会であったとしても、この論拠に異を唱える人はいないだろう。
次に、公職選挙法違反等に関連して、「5,000万円受け取った責任」などの見出しで、多額の金銭を扱うこと自体が不当とされた点について。本当に借りた場合は、都知事選における法定選挙費用(一候補者が選挙に使用できる費用の上限)の約9,850万円の範囲内なので金額に問題はなく、選挙運動収支報告書へ記載しなかったことについて出納責任者が公職選挙法違反の罪を問われることになる。他方、寄附だった場合は、政治資金規正法の「個人の寄附の量的制限(個人が一候補者に対して寄附できるのは年150万円まで)」に抵触するため会計責任者が罪に問われる。但し、いずれの場合も猪瀬氏自身が関与した場合には、その責めを負い都知事の職を失う。
最後に、偽証罪に関連して、猪瀬氏の発言が二転三転したことを問題視する点について。確かに、受け取った5,000万円の趣旨が「資金提供という形で応援」から「選挙資金でなく個人的な借入」へと変遷したことは、前述の公職選挙法違反に関わるので問題だ。しかし、金銭を授受した日の移動ルートや金銭を返却した日にちそのものを訂正することは疑惑の本質ではない。あたかも地方自治法の百条委員会で偽証罪に問えると断じることの方が問題だ。そもそも偽証罪は「争点との関連性を有する陳述」について問われるものだ。
「晩節を汚さぬように」という石原慎太郎・元都知事の助言は、何か不祥事などがあると徹底的な批判をする「水に落ちた犬を皆で叩く」といった状態を招来せぬようにとの配慮だったのか。この問題に関する多様な捉え方について考えさせられた。 〈秘書W〉