「建築基準法の規制値を超えるホルムアルデヒド(シックハウス症候群の主な原因物質)を含んだ外国製の壁紙が野放図に売られ、何も知らない購入者が安易にリフォームしている」。平事務所がこの問い合わせを受けたとき、私は「何らかの規制の網に掛かるはずだから、すぐに対応可能だろう」と思った。
まず建築基準法を所管する国土交通省に問い合わせると「建築物を新築・大規模改修する場合、ホルムアルデヒド含有量が規制値を上回ると手続き上、建築できない。だが、室内での壁紙のリフォームは、所有者等に適法な状態の維持義務を課しているものの、確認手段や罰則はない」とのことだった。
それでは他の法律ではどうか。「消費生活用製品安全法」(経済産業省所管)に当たると、ホルムアルデヒドについては別途「家庭用品規制法」(厚生労働省所管)で規制することになっていた。そこで、「家庭用品規制法」を見ると、皮膚に直接触れる一部の繊維製品(おしめ、つけまつげ等)に限って基準値を定めており、このような具体的な基準がない場合は、①健康被害が重大であること、②家庭用品と健康被害との関連性が認められること、という厳しい要件をクリアして初めて救済されるという。そして、「消費者安全法」(消費者庁所管)は、他の法律でカバーされない場合のみ発動されるとのことであった。
さらに異なる面から検討を加える。JIS規格やホルムアルデヒド放散量の等級記号(「☆☆☆☆(フォースター)」など)の点で取り締まれないか。これら品質については特に表示義務がなく、偽ったときのみ行政措置を行えるという。輸入時の水際対策についても、壁紙やホルムアルデヒドは対象外となっている。
色々法律を並べ立てたが、どれをもっても現状に即応できないためか、各省庁とも後ずさりする。歯がゆい思いをしながら平議員に報告すると、関係省庁を呼ぶよう指示を受けた。
平議員は関係省庁を前にして、「一部の輸入壁紙販売業者が品質検査を省き、安全性を軽視したビジネスモデルで安く売っている。他方で、真面目な業者は、安全性を高めるためのコストを掛けているので価格競争上不利になっている。健康上必要ということで規制している以上、フェアな競争ができるようにすべきだ。消費者が危険性を認識しながら自己責任で購入しているわけではなく、規制官庁が安全性に疑いを抱いているなら、消費者に対して警鐘を鳴らしたり、売り場で表示するよう業者を指導したりすべきだ」と説き、役所側もすぐに対応策の検討に入り何らかのアクションを起こすことを約束した。
安全上の規制を網羅的に行っているつもりでも、時として隙間が生じることがある。そして、誰かが早くその隙間に気付いて声を上げないと、知らないうちに健康被害が広がる。いつもは既得権益打破の観点から規制緩和を訴えることの多い平議員であるが、安全面はゆるがせにしない。 〈秘書W〉