政府は先週、「農業競争力強化プログラム」を決定した。このプログラムは、一昨年から推進してきた「農業の担い手の所得向上」のための農協・農業委員会改革等のうち、積み残された課題に対応するもの。現在の政府与党の政策決定プロセスでは、政府決定の前に自民党の承認手続きを必要とするので、その前段として自民党農林水産業骨太方針策定PT(小泉進次郎委員長)などで白熱した議論が行われた。
検討すべき主な課題は2つ、①生産コストの引き下げ(肥料、農薬、農機具などの生産資材の価格引き下げ)、②農産物販売の効率化(流通や加工構造の効率化)であった。最終的には①②いずれも農協の在り方を見直す方向になったが、その過程で、卸売市場の廃止も議論の俎上に載せられた。今回はこの部分に焦点を絞りたい。
問題視されたのは、農協は生産者(農家等)から委託を受けて農産物の販売を行うため生産者に価格決定権がなく、また農協の流通段階ごとに生産者が支払う手数料が重荷になっていること。このため、流通改革が必要とされたのであるが、スーパーが直接生産者から買い付けたり、生産者がファーマーズ・マーケットで直接販売できる機会が増えたりしたこともあり、卸売市場についても不要論が出てきた。しかし、データに目をやると違う事実が見えてくる。
データの1つ目は、「卸売市場経由率等の推移」。生産者は価格を自由に決められないが、卸売市場なら日持ちしない生鮮品を全て買い取ってもらえるため売れ残りリスクがない、卸売市場なら3日以内に売り上げを現金で受け取れるため貸倒れリスクがないなど、卸売市場は経済合理性の観点からも生産者にとって魅力がある。だからこそ経由率は減少傾向にあるものの一定水準を保っているというもの。
データの2つ目は、「青果物の小売価格に占める生産者受取価格の割合の日米比較」。当初、日本の流通は地域農協や中央農協を通した後に卸売市場を通すなど関門が多いため非効率で、アメリカの流通は分業化された専門会社が担うので効率的という主張もあった。しかし、生産者の手取りはいずれの青果物についても日本が多く、日本の仕組みが非効率とは言えない。
これらの指摘は、自民党の会合で平議員によって行われたものであり、結論として、今回のプログラムで、卸売市場は合理化を一層進めることになったものの、その存在意義は再認識され、生産者側が貸倒れリスク、売れ残りリスク、在庫負担を急に抱える事態は回避された。
会議後、その明快な解説に記者は絶賛するも記事にはならなかった。「青果物の小売価格に占める生産者受取価格の割合の日米比較」は元々議員への配布資料に含まれていなかったが、平議員の指摘により農水省から提示されたものだ。生産者の隅々まで国政での一つ一つの議論は届かないだろうが、私は一筆の価値がある政策論争だったと捉えている。 〈秘書W〉